用水路のそばの砂利が敷かれた畦道にメルセデス・ベンツのステーションワゴンを停止させ、運転者が小用を足すため一時車から離れたところ、そのまま用水路に水没してしまったという事故があります。クリープ現象で、車が自動発進したからです。事故はいくつかの偶然が折り重なって起きました。運転していた男性は、トランスミッションーギアを「ニュートラル」にしたつもりが「ドライブ」の状態になっていたと推測され、そのうえサイドブレーキの引き方が甘かったのです。それに加えて、この車は当日知人から借りた車であったため、被害車両の運転操作に不慣れだったという不運が重なりました。幸い、事故車にはD損保に五〇〇万円の車両保険がついていました。車の被害者(車の貸主)は、自動車保険で保険金五〇〇万円を請求します。しかし、損保側は支払いを拒否してきました。「こんな事故が偶然に起きたとは考えがたい。借金の返済に首が回らなくなった被害者が、運転者と共謀して故意に車を水没させたのにちがいない」と。こちらから東京地裁に提訴したこの事件で、D損保側の弁護士は次のように反論しました。「運転者はギアが『ドライブ』の状態とは気づかず、フットブレーキを踏み、サイドブレーキを引いて外にとび出したという。そのときサイドブレーキの引き方が甘かったので、運転者が外に出たあと、車は無人のまま動き出したなどと言っている。そんなことは物理的にありえない。『ドライブ』の状態で、サイドブレーキの引き方が甘ければ、車は即座に発進するわけだから、スタントマンのような特殊技能を備えている者でない限り、車から外にとび出すこと自体できない。さらに車が動き始めたことを認識しないで外に出ることは不可能だ」と。こういうことを言われますと、被害者としては事故の再現ビデオを作って、被告側損保の主張が誤りであることを証明する必要に迫られます。