ベテラン看護師の存在が大切なのは、看護師の力は経験を積めば積むほど発揮できる部分があるからだ。人の死や苦しみと向きあい、多くの患者を看てきたからこそ言えることもある。看護師歴40年で熊本県内の自治体病院で勤めていたMさん(59歳)は、「看護師の言葉ひとつで患者は変わる」と話す。Mさんが30代の頃、整形外科病棟に入院した患者のことが忘れられない。雨の降る日、Kさん(女性)は傘を持たずに家を出て大学生の娘を迎えにバス停で待っていた。すると乗用車が爆走して止まることなくKさんをガードレールに激突、Kさんはバス停すぐ後ろの田んぼに突き落とされた。事故によって既に左足は膝10センチ下から切断された状態で救急搬送された。田んぼの泥に浸かった足は、破傷風を起こす危険があった。Kさんにとっては、平和な日常生活を送っていたなかでの突然の悲劇。切断部分の組織の状態は悪く、肉や骨も見える状態で泥が入り込んでいる。それを洗い流すために毎日、医師は10リットルの生理食塩水を使い1時間かけて洗浄していた。皮膚が再生していないため、ガーゼが食い込み交換する度に激痛が走る。洗浄も気絶しそうな苦しみを伴い、Kさんは処置の度にわめき騒いだ。Kさんの気持ちはわかっても、足を洗浄する医師も、足を抑える看護師もみな、一苦労で滅入ってしまった。MさんがKさんの処置についた時、こう言ってKさんを諭した。「先生は意地悪をしてガーゼ交換をしたり、足の洗浄を行っているのではない。毎朝、忙しい時間帯に1時間もかけて先生と看護師3人で洗浄するのは、私たちも大変なこと。けれど、先生はあなたの足を1センチでも長く残したいから毎日、洗浄しているのよ。膝の関節の上から切断してしまえば処置は楽だけれど、あなたは不幸中の幸いにも関節が残っている。関節があれば、自分の意思で関節を動かすことができる。だからこそ、手術までに化膿しないように綺麗にしているのよ」その言葉に、Kさんは前向きになり態度は180度変わった。辛い処置にも泣き言ひとつ言わなくなった。入院中、病院の機関紙に俳句を投稿するまで気持ちが落ち着いたという。Mさんは「看護師の役割には、どうしてこの辛い治療を行うか、その意味を知ってもらうことにある」と、この時、痛感した。
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